椎間板ヘルニア(herniated disc)と素因減額に関する裁判例

椎間板ヘルニアについては,外傷によって生じたものか,経年性変化かがまずもって問題で,前者であれば,後遺障害12級以上の認定がなされるべきであり,後者の場合であっても,経年性変性が年齢相応であれば,素因減額を認めるべきではないように思います。
 
事故前から疾患を有していたかが定かでない場合にも素因減額をするのは相当ではないと思います(事故後の症状が軽い場合に,事故前に発症していなかった椎間板ヘルニアを考慮するのは相当ではありません)し,事故の衝撃の程度を考察し,衝撃の程度が大きい場合にも,素因減額を否定する方向に働くと考えられます。

 

もっとも,裁判例の中には,事故の衝撃が契機となり,椎間板ヘルニアが発症ないし憎悪した場合に,その発症につき体質的素因の寄与があるとして減額したり,事故後の症状自体あるいは症状の継続に寄与しているとして減額しているものがあります。

裁判例の傾向としては,むち打ち損傷が生じる程度の事故(骨傷等が生じない事故)で椎間板ヘルニアを発症し12級以上の後遺障害が認められたような場合には,「素因発現の客観的蓋然性の程度(事故に遭遇しなくとも自然的経過で発症した蓋然性)」や「事故の態様・程度と損害との均衡」などの点から,減額を肯定すべき事情が存することが多いのではないかと分析されています(湯川浩昭「素因減額の判断要素と割合について」判タ880号41頁,栗宇一樹ほか編「交通事故におけるむち打ち損傷問題・第二版」250頁)。

第1 14級を認めたもの

1 素因減額なし

(1) 東京地裁平成12年6月14日判決・交民33巻3号966頁

被害者(当時32歳男性),14級
被害者に発症した頸椎椎間板ヘルニアは,経年性の変異によるもので,事故前から存在したものであるが,経年性の変異は年齢相応のもので,ヘルニアも小さいものであったこと,事故の外力等を考慮して,素因減額を否定しました。

(2) 大阪地裁平成13年8月28日判決・交民34巻4号1100頁

被害者男性,14級
事故と被害者の椎間板ヘルニア(椎間板の後方膨隆)との間の因果関係はにわかに認めがたいが,事故前に症状はなく,事故を契機として症状が発現したこと,事故の衝撃も軽微とはいえないことなどから,事故により椎間板ヘルニア等の症状が憎悪して症状が発現したものであるとし,憎悪した部分に該当する腰部の疼痛等につき14級の後遺障害を認めました。その上で,被害者の椎間板ヘルニア等の加齢性変性の程度は同年齢の者に通常見られる軽度な経年性のものであり,これは「疾患」にはあたらない体質的素因に過ぎないとして素因減額を認めませんでした。

(3) 横浜地裁平成13年10月12日判決・自保ジ1421号

被害者(当時23歳男子医学部学生),14級,労働能力喪失期間5年
被害者は,事故により発症した腰椎椎間板ヘルニアが腰部の神経を圧迫し,慢性的な腰部正中周辺の痛み及び両下肢の痛みを生じ,特に,腓腹筋(ふくらはぎ)には,時折電気的にしびれるような激痛が走り,更に,両太腿周辺にはしびれ,知覚鈍麻等の神経症状がありました。また,被害者は,病院に医師として勤務していましたが,医師業務の日常的な動作に苦痛を伴い,気温や湿度の状況によっては,長時間の手術に耐えられない時もありました。
さらに,被害者は,受傷直後,不眠・情動不安定となり,夜間に妄想・幻覚が出て,精神薬を服用したところ,幻覚は改善しましたが,不眠・情動不安定は改善せず,活動性低下,神経質・意欲低下がとなって,うつ状態になりました。また,食欲低下,体重減少もありました。裁判所は,14級神経障害に相当するとして,5年間に亘り喪失率5%を賃金センサス医師男子全年齢平均を基礎に逸失利益を認定しました。
物損の程度も大きく,被害者が乗車していた車が電柱に衝突して大破するような事故でした。

(4) 神戸地裁平成13年12月5日判決・自保ジ1459号

被害者(42歳女性),労働能力喪失期間3年,喪失率7%
被害者は,原付自転車で低速進行中,加害者運転の車乗用車が停止から発進したため接触して,事故となりました。被害者は接触のみで転倒しませんでしたが,左肩,腰痛等から腰椎椎間板ヘルニアと診断され約10か月通院,後遺障害14級を認定,労働能力喪失期間3年として喪失率は7%としました。
 
裁判所は,軽微接触と腰椎椎間板ヘルニアの因果関係を認め,素因減額を否定しました。「両足を踏んばったため腰椎椎間板ヘルニアが発生した」とし,軽微な「事故でもヘルニアが発生する」として,事故前変性していた証拠はなく,「年齢相応の平均的な身体的特徴について素因減額するのは相当でないと判断しました。

(5) 大阪地裁平成14年6月20日判決・交民35巻3号844頁

頸椎,腰椎に椎間板の変性,骨棘の形成,ヘルニア等があったが,これは加齢に伴う通常の変性を超えるものとは認められないとして素因減額を否定しました。

(6) 京都地裁平成25年2月5日判決・自保ジ1901号

被害者(47歳男性会社作業員),14級,労働能力喪失率8%,労働能力喪失期間10年
被害者は,乗用車を運転停止中,被告運転の普通貨物車に追突され,約1年後に症状固定した事案です。被害者の症状につき,裁判所は,「両手しびれは,C4/5の椎間板ヘルニアにより障害されるC5神経根の支払領域の知覚障害ではない。このように明らかな画像所見がありながら,神経学的所見及び症状との一致がない点が特徴であり,この点で,症状固定時の原告の症状について明らかな他覚的裏付けがあるというのはなお躊躇される。
以上に加え,原告本人尋問の結果により認められる原告に残存する症状の内容,頑固さ等も考慮し,症状固定時から10年間,8%の労働能力喪失を認める」と後遺障害逸失利益を認め,後遺障害慰謝料は,「後遺障害の内容,程度等を総合し,150万円をもって相当と認める」と認定しました。
 
被害者は,本件事故の約4年半前,「起床時に右頸部痛を自覚し,これが増悪したため,B整形外科に通院したことが認められるが,この際,本件事故後の頸部由来の症状の素因となる器質的損傷が生じたことを認めるに足りる証拠はない。被告は,上記頸部痛で生じた頸部の筋の変化が本件事故後の頸部痛の素因となっていることも考えられると主張するが,「素因となっていることも考えられる」との理由での素因減額はしない」と素因減額を否認しました。
 
被告は,「交通事故後確認された腰椎椎間板ヘルニアが,その後加齢により進行し,本件事故後の腰部の症状の素因となっている旨主張する。しかし,頸椎につき説示したのと同様,本件事故前,腰椎に疾患というべき退行変性が存在していたことを認めるに足りる証拠はなく,画像所見と症状,神経学的所見の一致がないから腰椎の椎間板ヘルニアが同事故後の腰部の症状の素因であると断定できない」とも認定しました。
 

(7) 東京地裁平成25年12月18日判決・自保ジ1917号

被害者(病院事業管理者男性),14級,労働能力喪失期間5年
被害者は,「本件事故の際,原告から見て右前方から被告車の衝突を受け,顔面及び前胸部が被告車と衝突した上,被告車に跳ね飛ばされ,右肘及び右臀部を路上に打ち付けて転倒した。原告は,本件事故直後,B病院に救急搬送された。原告は,頸椎及び腰部の疼痛を訴えたが,レントゲン検査及びCT検査の結果,頭部,胸部,腹部に骨折や出血は認められず,神経学的異常もないとされ,頭部打撲,胸部打撲,腹部打撲及び頸椎捻挫と診断」されました。
 
被告主張の素因減額につき,被害者には,「少なくとも変形性頸椎症及び腰椎椎間板ヘルニアの既往症があったことが認められる。しかし,認定事実によっても,原告は,それらの既往症のため,持続的な疼痛やしびれ等があり,継続的に通院加療を要する状態にあったとは認められないのに対し,原告は,本件事故後,頸部痛や腰部痛を継続して生じ,上下肢のしびれ,筋力低下も継続して生じたものと認められる。そして,後遺障害の内容及び程度も考慮すると,原告の既往症について,素因減額を認めるのは相当ではないものというべきである」として,被告主張の素因減額を否定しました。
 
症状固定時期については,被告の主張を認め,本件事故後の約1年半後としまし,14級9号の「局部に神経症状を残すもの」にとどまり,これが,労働能力喪失率において 5%,労働能力喪失期間も5年程度に制限される」と認定しました。

2 素因減額あり

(1) 大阪地裁平成8年7月5日判決・交民29巻4号1020頁

被害者(当時37歳男子歯科医師),14級,労働能力喪失期間8年,素因減額1割
被害者が追突事故で腰部捻挫等の診断を受け,事故後約4か月間治療を行ないましたが,その後約8ヶ月間治療を中断したところ,腰椎椎間板ヘルニアとなり再び治療を受けました。裁判所は,中断後に再開したヘルニア治療も含めた全治療期間を事故と相当因果関係のある損害と認めました。
 
裁判所は,「被害者の腰部の痛みは事故後,変動はあるものの,一貫して存し,右症状は,筋力低下,反射の低下等の一定の客観的所見を伴っており,被害者の腰椎の変形と符合する症状であること,その程度も腰の屈曲障害の程度や,後に見るように被害者の仕事に相当深刻な影響を与えたことから見ても,労働能力に影響を及ぼす程度に達していると認められる。」として,神経症状として後遺障害14級10号を認めて,仕事内容,障害部位などに照らし,症状固定後8年間,5%の労働能力喪失をホフマン式で認めました。
 
但し,事故前に軽度な経年性の腰椎変形を有することが寄与したとして,1割の素因減額を認めました。なお,被害車両の損害は,30万円弱でした。

(2) 京都地裁平成14年4月4日判決・自保ジ1458号

被害者(37歳女子家業の酒店に従事する主婦),14級,労働能力喪失期間3年,素因減額25%
被害者は,乗用車を運転停車中,小型貨物車に追突されました。被害者は,腰椎椎間板ヘルニア等と診断されて後遺症について事故によるものと主張しました。
裁判所は,被害者が事故当日の診察においても痛み等の自覚症状を訴えていたことを考慮すると,腰椎椎間板ヘルニアそれ自体が被害者の私病であるとしても,それに本件事故による衝撃が加わった結果,それまで生じていなかった腰痛や左下肢の放散痛が顕在化し,それが現在に至るまで残存しているものと医学的に了解することが可能であるとして,後遺障害等級14級10号を認めました。
 
しかし,他方,腰椎椎間板ヘルニアについて私病として全損害に25%の素因減額を適用しました。その理由としては,受傷当初「神経学的障害やレントゲン検査上の異常所見が認められなかった」し,「受傷は比較的軽微であったから,腰椎椎間板ヘルニアが本件事故によって生じたとみることは困難で,事故前からの私病であったと認める」とし,「私病があったところ,本件事故による衝撃が加わった結果,顕在化した」ので「損害については25%の素因減額を行」いました。
労働能力喪失期間は,将来の後遺障害に対する馴れの可能性から3年間としました。

(3) 横浜地裁平成20年8月28日判決・自保ジ1769号

14級,労働能力喪失期間5年,素因減額2割
被害者は,高速道路での事故で腰部打撲など受傷し,腰椎椎間板ヘルニアとなり,536日入通院しました。その間に髄核摘出術を受けました。
 
事故によって腰椎椎間板ヘルニアを発症したかが問題となりました。被害者は,本件事故前は腰痛の症状はなかったが,本件事故で腰部を打撲して,当初から腰痛を訴え,初期の段階では腰椎椎間板ヘルニアに最も特徴的な所見であるSLRでの陽性所見は見られませんでしたが,その後腰痛が更に強くなり,SLRで片側に陽性所見が見られ,MRI検査で第4/第5腰椎間に腰椎椎間板ヘルニアの所見が見られたものです。そして,主治医は腰椎椎間板ヘルニアの原因について,本件事故による外傷だけではなく,もともとの椎間板変性もあるとしており,本件事故による外力だけで椎間板ヘルニアが生じるとは考え難いとしました。
 
また,被害者がブレイクダンスやテニス等を腰椎に力学的負荷がかかるスポーツをしていたことは,その影響による椎間板変性を示唆するものでした。
 以上を総合して,裁判所は,被害者の椎間板ヘルニアによる症状は,もともと被害者に椎間板変性が存在していたところに,本件事故による外力が契機となって,椎間板ヘルニアによる症状が発現するに至ったものと認められると判断しました。
 したがって,本件事故だけが椎間板ヘルニアの原因であるとはいえないが,本件事故と椎間板ヘルニアの因果関係については,これを認めるべきであるとしました。
 被害者の後遺障害は,14級10号(局部に神経症状を残すもの)に該当し,被害者は,長時間座っていたり,立っていたりすると,腰痛が現れることが認められるところ,このような後遺障害の内容からすれば,被害者は,本件事故による後遺障害により,症状固定日から5年間,労働能力を5%喪失したものと認めるのが相当であるとされました。そして,ヘルニアは,「スポーツ等の影響によるものとみられる」観点から,被害者は「椎間板変性が存在していた」もので,症状が本件事故で発現したとして,「素因減額として,損害額の2割を減額する」と認定しました。
 

(4) 東京高裁平成24年5月31日判決・自保ジ1880号,一審・東京地裁平成23年2月3日判決・自保ジ1848号

被害者(30歳女性),14級,低髄液圧症候群を否定したもの
「Xは本件事故により頸椎捻挫及び腰椎捻挫」を負い、「本件事故から1年を経過…には症状固定に至っていた」として、後遺障害等級は14級9号と認定しました。
 
Xは、本件事故当時「右坐骨神経痛や腰椎椎間板ヘルニアにより加療中であると述べた」ことを素因減額として、「2割を減額する」と認定しました。

第2 12級をみとめたもの

1 素因減額なし

(1)  大阪高裁平成14年6月13日判決・自保ジ1462号
被害者(63歳女子成型工),12級,労働能力喪失期間9年
被害者は,交差点を一時停止後直進中,同様に一時停止後右折してきた小型貨物車に衝突され,転倒し,腰部挫傷,左ひざ打撲,左股関節挫傷の傷害を負った事案。事故から40日後にMRIにより腰椎椎間板ヘルニアが,事故の約3か月以降から訴えが出始めた頚部痛については,事故後約7か月後にMRIにより頚椎椎間板ヘルニアが確認され,約2年4か月の間に185日入院,308日実通院して頸椎固定術を受けました。
裁判所は,腰椎椎間板ヘルニアについては事故直後から腰部痛を訴え,診断・治療がされていること等から本件事故との因果関係を認め,「腰部に頑固な神経症状」として12級(9年間・14%)を認めました。素因減額については,被害者の腰椎に加齢性の変性等が事故前から存在したと認めるに足りる証拠がないとして否定しました。
 
頚部痛については症状の訴えが事故から3か月後,ヘルニアの確認は事故から7か月後であったこと,頚椎には椎間板ヘルニアと同時に経年性変化が顕著に認められたこと,自転車からの転倒事故で必ずしもむち打ち運動を伴わないこと等から,頚部椎間板ヘルニアと事故との因果関係を認めることはできないとして否定,同手術による脊柱運動障害の後遺症も否定しまた。

(2) 横浜地裁平成12年5月30日判決・自保ジ1366号
 
被害者(当時26歳女性会社員),12級,労働能力喪失期間10年
被害者に事故後一定期間経過後に腰部椎間板ヘルニアが発症した事例で,被害者は,「交通事故等による外傷が原因で椎間板ヘルニアになる可能性はある」とし事故の衝撃が軽度でないこと,加害者による時速40㎞でほとんどブレーキをかけることなく玉突き追突した結果,衝撃は軽微とはいえないこと,事故直後から腰痛があったと認められることから「本件事故と被害者の腰椎椎間板ヘルニアは因果関係がある」と認定しました。
 
後遺障害は,腰痛,しびれが「12級12号に該当する」とし(自賠責はヘルニアと事故との関係を認めるも,非該当),「3年以上経過しても症状が強く残っている」と10年間の14%の労働能力喪失を認めました。

(3) 大阪地裁平成13年12月25日判決・交民34巻6号1668頁

    被害者(当時61歳女性工員),12級,労働能力喪失期間9年
    被害者が,信号機のない交差点を直進中に右折自動車と衝突し,腰部挫傷,左膝挫傷の傷害を負いました。事故直後受診した病院において,腰部挫傷,左膝挫傷,左股関節挫傷と診断されており,同病院のカルテ上も,1か月余りの通院期間中,上記各部位についての痛みのみを訴えて転院した別の病院に入院し腰椎MRIにより腰椎椎間板ヘルニアが確認されたというものです。
 裁判所は,腰椎椎間板ヘルニアについて,被害者が事故直後から腰部痛を訴え,当初,腰部挫傷と診断されたが,その後も硬膜外ブロック療法等が奏功せず,事故から約40日後にはMRIによりヘルニアの存在が確認されていることからして,事故により発症したものであると認めることができるとしました。
 腰部に頑固な神経症状12級12号相当の後遺障害があるとして,症状固定後9年間,労働能力を14%喪失したものとして,実収入を基礎にライプニッツ式で逸失利益を認めました。
 腰椎椎間板ヘルニアについては,被害者の腰椎に加齢性の変性等が事故前から存在したと認めるに足りる証拠はなく,この点に関し素因減額すべきとの被告の主張も理由がないと否定しました。

(4) 東京高裁平成20年1月24日判決・自保ジ1724号

被害者(40歳男性会社員),腰痛につき12級
被害者は,「本件交通事故直後から,それまであったとは認められない頭痛,嘔吐,吐き気,首・肩・背中の痛み・口角上部の知覚不良等の症状が生じ,D病院医師に頸部捻挫などと診断されて通院を継続し,症状固定となり,頭痛,頭部痛,右顔面けいれんの後遺障害がある旨の診断をされ,そのころ,上記頭痛等が原因で勤務先を解雇されるに至った。上記後遺障害は,その後も残存し,更に腰部痛,手足のしびれ等の発生,増悪も生じ,通院を続けている中で実施された頸部MR険査でC3/4及びC4/5に頸椎椎間板ヘルニアが認められた。
 
上記各症状のうち頭痛,頸部痛,右顔面けいれんといった神経症上は,本件交通事故直後から一貫して訴えられて後遺障害として残ったものであるから,本件交通事故の後遺障害と認めることができる。」と判断されました。
 
また,「控訴人(被害者)の頸椎椎間板ヘルニアが経年性のものであると認めるに足りる証拠はないし,仮に経年性のものであるとしても,上記頸椎椎間板ヘルニアが上記症状の原因であるとの判断が左右されるわけではない。そして,本件交通事故前には症状がなく,同事故後は上記症状が生じることになったのであるから,仮に上記ヘルニアが経年性のものであったとしても,本件交通事故による負傷を契機として症状を伴わなかった頸椎椎間板ヘルニアが症状を伴うようになったものであって,結局,本件交通事故によって,同ヘルニアが悪化しその結果,上記後遺障害が生じたと認めることができる(なお,仮に上記椎間板ヘルニアが経年性のもので本件交通事故前からあったものであるとしても,頸椎椎間板ヘルニアを抱えながら社会生活を送っている者は多数存在しており,控訴人の上記ヘルニアが特殊なものであるとの主張立証もないから,同ヘルニアのあったことを損害賠償額の減額事由として考慮する必要はない。)。」とされ,後遺障害等級12級12号の「局部に頑固な神経症状を残すもの」に該当すると認められています。
 

(5) 名古屋地裁平成26年1月31日判決・自保ジ1921号

被害者44歳男性,12級13号,労働能力喪失期間10年
被害者は,自動二輪車を運転中被告タクシーと転倒,衝突して歩行困難の障害を残したとする事案で,「本件事故前には原告は特に支障を感じることなく調理師として仕事に従事するなどしていたところ,本件事故によって転倒し,頸部挫傷等の強い外力を受けた結果本件事故後に両上肢のしびれ感等の症状が出現したこと,医師によって頸椎ヘルニア及び脊椎管狭窄の存在によって本件事故による症状が増悪した可能性は否定できないと評価されていることが認められる。したがって,原告に本件事故後に頸部痛,頭痛,両上肢のしびれ等の症状が残存したが,これらはいずれも本件事故と相当因果関係にある後遺障害と認められ,椎間板ヘルニアによる脊髄への圧迫所見から上記症状が説明可能であることから後遺障害等級は12級13号に該当し,労働能力の14%を喪失したものと認める」と認定しました。
 
また,素因減額については,「脊柱管狭窄はもちろん頸椎ヘルニアも本件事故によって生じたものとはいえないが,本件事故前に具体的な症状が出ていたことを認めるに足りる証拠はなく,その程度は加齢に伴う通常の変性の範囲内のものであるというのであるから,素因減額をすべきとはいえない」と認定しました。

2 素因減額あり

(1) 札幌地裁平成5年7月7日判決 自保ジ・判例レポート114号-No.2

被害者(当時35歳男子大工),12級,労働能力喪失期間10年,素因減額3割
被害者は,圧雪状態の道路上で乗用車を運転停止中,被告運転の小型貨物車(保有者被告会社)に追突され,頸椎及び腰椎捻挫,外傷性腰椎椎間板ヘルニアで5回にわたり入通院を繰り返し,ヘルニア手術を受けましたが,事故3年3月余に9級相当の後遺症を残したとして請求をした事案です。
 
被害者は,「外傷性腰椎椎間板ヘルニア」と診断され,第4,5腰椎開窓術及び椎間板摘出術を受けました。そして,腰椎に起因する腰痛,右下肢しびれ,右下肢筋力低下,右下腿知覚障害は,「かなり頑固な神経症状」というべきであるから,後遺障害別12級12号に相当するものと認められました。
 
外傷性が争いになりましたが裁判所は,「被害者には,事故前から頸椎及び腰椎の脊椎管狭窄があったが,このような人はわずかな外力によっても頸椎捻挫,腰椎捻挫,外傷性腰椎椎間板ヘルニアを起こしやすいことを併せ考えると,本件事故により発生したものと認められる。」としました。しかし,「原告には,本件事故前から,頸椎及び腰椎に脊椎管狭窄があり,これが本件事故による傷害の発生及びその後の治療の内容に影響していたことが認められるから,原告の右素因を斟酌」し3割を減額しました。

(2) 大阪地裁平成8年10月31日判決・自保ジ1185号

被害者(37歳男子鉄筋工),12級,労働能力喪失期間20年,素因減額8割
被害者(事故前から腰がつったような症状あり)の腰椎椎間板ヘルニアの残存症状(特に杖歩行が必要な程度の右下肢痛み)は,MRI検査によるへルニアの所見等他覚的症状が認められるから,後遺障害12級12号(頑固な神経症状)に該当するものというべきであるが,その症状には,被害者が本件事故前から持っていた体質的素因が大きく影響していると認められるから,8割の寄与度減額をするとされました。

(3) 神戸地裁平成13年9月5日判決・交民34巻5号1231頁

被害者(症状固定時31歳主婦),12級,労働能力喪失期間5年,素因減額7割
被害者が,駐車場内で停車中,他の乗用車に逆突された接触程度の軽微事故です。被害者は事故後3日後に腰痛を訴え,事故による腰椎捻挫ないし腰椎椎間板ヘルニアのために腰部から左臀部にかけての疼痛が残存し,かかる疼痛のため胸腰椎部の運動制限が生じました。他覚所見等をふまえて腰椎捻挫ないし腰椎椎間板ヘルニアに基づく後遺障害であると認められるとして,全体として後遺障害第12級12号(局部に頑固な神経症状を残す)に該当すると認めました(自賠責は非該当)。
労働能力喪失期間は,当初の発症を誘発した事故の影響は,月日の経過とともに低下していくものと考えられるから,症状固定日から5年間の範囲と判断されました。
また,事故当時,既に退行変性が存在していたものとされ,通常の日常生活を送る中においても腰椎捻挫ないし腰椎椎間板ヘルニアに罹患しやすい状態にあり,通常人に比べてより慎重な行動をとることが求められるべき状態にあったとして,被害者の椎間板の退行変性を身体的素因として素因減額7割とされました。

(4) 大阪地裁平成12年3月15日判決・交民33巻2号541頁

被害者(事故当時27歳),12級,労働能力喪失期間39年,素因減額3割
衝突事故で受傷した被害者が,頸部捻挫による右小指,環指から前腕尺側の知覚鈍麻,第4,第5腰椎間の椎間板ヘルニアの増悪があり,右仙腸関節部の痛み,右上臀部の痛みが残った結果,未だに痛みがひかず,胸腰椎部に運動障害が発生し,長時間座ること及び長時間歩行することが困難となりました。それに対して,局部に頑固な神経症状を残すものとして後遺障害12級12号,労働能力喪失率は14%,労働能力喪失期間39年としました。
しかし,腰椎椎間板ヘルニアの既往症が本件事故により増悪したものとして,3割の素因減額を認めました。

(5) 名古屋地裁平成11年4月23日判決・交民32巻2号666頁

被害者(会社共同経営者),12級,労働能力喪失期間5年,素因減額5割
被害者が,バンパーが損傷する程度の追突事故で受傷して,約3年6ヶ月間加療し症状固定に至りました。被害者は,腰椎椎間板ヘルニアにより第5腰椎,第1仙椎間の固定術を受け,その後も腰椎部痛,右上肢痛,右上肢ふるえ,左下肢痛,歩行困難(松葉杖使用)等の障害が残りました。
裁判所は,事故の衝撃は,激烈とはいえないものの,ごくわずかともいえないことが明らかであるとし,事故により発症したものと認められる腰椎椎間板ヘルニアにより第5腰椎,第1仙椎間の固定術を受けて,もっぱら各所の疼痛により動作が制限される状態にあったとみるのが相当であるとしました。その上で,後遺障害の程度は後遺障害等級12級の12にいう局部に頑固な神経症状を残すものに該当するとみるのが相当であるとし,労働能力喪失率14%,症状固定時から5年間を新ホフマン係数で控除し,逸失利益を認めました。
しかし,事故前に発症はしていないとしても事故直後既に被害者の腰椎各所の変性が顕著であったこと,手術時の所見で第5腰椎と第1仙椎間のヘルニアに骨殻が伴っていたことなどからして本件事故以前から右のヘルニアが存在した疑いがあることに照らすと,被害者の腰椎椎間板障害は,本件事故以前からの既往症がかなりの程度寄与していることが明らかである等として素因減額5割としました。

(6) 京都地裁平成22年3月30日判決・自保ジ1832号

被害者10年前自賠責12級認定受ける56歳男性,12級,素因減額50%
被害者は,約10年前の追突事故で12級後遺障害認定を受ける56歳男性であるが,被害者が乗用車運転停止中に乗用車に追突される本件第1事故,その5ヶ月半後,乗用車運転停止中に乗用車に追突された第2事故で右上肢痺れ,冷感,巧緻障害等「頑固な神経症状を残すものとして等級表第12級に該当する」と認定し,「自賠責手続における後遺障害等級認定に係る記載は,上記判断を左右しない(自賠責手続においては,第14級に該当するものと記載されていました。)」と判断されました。
他方,10年前からの「疾患とがともに原因となって生じたものであること,本件各事故とその後に生じた原告の上記神経症状との間には相当因果関係がある」が,被害者「に生じた損害のうち,休業損害,後遺障害逸失利益,傷害慰謝料及び後遺障害慰謝料については…50%を減額する」としました。

(7) 東京地裁平成24年1月18日判決・自保ジ1867号

被害者(症状固定時48歳男性会社員,管理職),12級,67歳まで14%の労働能力喪失
被害者の受診歴からは,「腰部脊柱管狭窄症と診断されるなどしていたこと,椎間板変性の程度は同年齢の正常像に比して進行が著明である程度であったことが認められるのであり,原告の腰椎には本件事故以前から相当程度の変性が存したということができる(原告の腰椎椎間板の変性は多椎間にわたっている)」が,「原告の後遺障害は,本件事故と本件事故以前から存在した脊柱管狭窄症ないし腰椎椎間板ヘルニアという素因が共に原因となって発生したと認めるべきであり,本件事故まで原告に脊柱管狭窄症等の症状が発症していなかったことを踏まえても,その素因の寄与度は1割と認める」と認定しました。

第3 等級の重いもの

1 素因減額なし

(1) 横浜地裁平成7年9月29日判決・交民28巻5号1443頁

被害者(当時39歳主婦),9級,労働喪失期間10年
被害者には事故以前から腰部脊柱管狭窄症又は黄色靱帯(黄靱帯))肥厚が存在し,本件事故によって被害者の第4腰椎と第5腰椎との間の椎間板に腰椎椎間板ヘルニアが生じて神経に対する強い機械的刺激が加わった結果,腰髄癒着性蜘蛛膜炎及び腰髄神経根炎が発生しました。

その結果,神経系統の機能障害のため,腰痛,左下肢のしびれ,疼痛,筋力低下の後遺障害が生じ,軽易な労務以外の労務に服することができない状態となりました。そこで,9級10号として,症状固定時から10年間,その労働力を35%喪失したと認めました。(10年としたのは,被害者が主婦であり次女が成人になるまでの期間を考慮したものと考えられます。)

(2)  大阪地裁平成4年10月19日判決・交民25巻5号1245頁

被害者(当時36歳男子・左官),5級,労働能力喪失期間28年
被害者は,交差点歩道上で足踏式自転車に跨がり立ち止まっていたところ第1次衝突事故により暴走してきた自動車に衝突されました。被害者は右第3腰椎横突起骨折及び右膝挫傷の他,腰椎椎間板ヘルニアの傷害を負いました。
その後,保存的療法での治療を受けましたが,腰痛は改善せず,第5腰椎第1仙椎神経根症状が認められました。そこで被害者は,第4ないし第6腰椎(第1仙椎)後側方固定術を受けました。
そして,このヘルニアの手術のために右上腕神経麻痺の症状が発現して後遺障害となったと認められました。これに加え,被害者の年齢,職業その他諸事情を考慮すると,被害者は,事故による後遺障害により,5級相当である労働能力79%喪失したものとして,就労可能28年間の逸失利益を認めました。
素因減額については,椎間板ヘルニア発症の先天的過形成性について何ら証拠が明らかとされず,かつ腰部の加齢性変化の存在も証拠がないことから認めませんでした。

2 素因減額あり

(1) 浦和地裁平成12年3月29日判決・交民33巻2号639頁

被害者(症状固定時40歳の主婦),7級,労働能力喪失期間27年間(67歳まで),素因減額3割
被害者は,追突事故に遭い,腰椎椎間板ヘルニアに罹患し,約4年6ヶ月間入通院して手術後,全脊柱前弯変形及び両下肢筋力低下と知覚鈍麻の障害を残しました。裁判所は,現在,歩行不目由で,車椅子を使用しているが,杖の使用により歩行可能であり,オートマチック車の運転も行っている等からして,後遺障害は,「神経系統の機能に障害を残し,軽易な労務以外の労務に服することができない」とし,7級が相当であるとしました。
なお,被害者の椎間板ヘルニアは,本件事故による受傷直後に生じたものではなく,事故後一定期間経過後に所見が出現しましたが,事故の翌日から激しい右下肢痛などを訴えていたこと,事故4か月後にL4/L5の不安定性や軽度のヘルニア様突出などの所見が得られたこと,事故前に腰痛などの自覚症状がなかったこと,一般的に,事故直後には椎間板ヘルニアの定型的症状が認められない場合であっても,事故による外傷にマイナートラウマが加わることにより椎間板ヘルニアが事後的に発症する例が臨床的にみられることから椎間板ヘルニアは事故による受傷が発症契機となって出現したと認められるとしました。
そして,症状固定時40歳から労働可能67歳までの27年間,労働能力を56%喪失したものとして,ライプニッツ式により中間利息を控除して逸失利益を認定し,後遺障害は,被害者の素因に基づく心因性もその重要な原因になっているものと推認することができるとして,素因減額3割としました。

(2) 神戸地裁平成19年10月1日判決・自保ジ1743号

被害者(59歳男性畳職人),6級,労働能力喪失率67%,素因減額3分の1
被害者は,普通貨物車を運転中,被告運転の対向普通貨物車がスリップして,センターラインを越えてきて衝突,一時気を失い,その後両下肢疼痛等で121日入院,約1年5か月後症状固定したという事案です。
被害者は,衝突時一時的に気絶,同乗者の妻は鎖骨骨折から強い衝撃を受けたことがうかがわれ,原告の頸椎椎間板ヘルニアは「事故を契機として生じた」としました。また,被害者は,「脊柱に著しい運動障害を残」していますが,骨盤骨の変形,四肢の痺れ等の神経障害等と合わせ併合5級とするのは,原告の症状を1上肢の用を全廃もしくは1上肢を腕関節以上で失ったものと同等視することになり,それは「疑問である」とし,原告の後遺障害を6級,67%の労働能力喪失とし,糖尿病疾患を有するが,自営業で70歳まで稼働できると10年間の後遺障害逸失利益を認定しました。
一方で,被害者の椎間板ヘルニアは,糖尿病に加え「生理的な加齢に基づく変性を背景」としているとし,「加齢の寄与した割合は3分の1である」として素因減額をしました。

(3) 横浜地裁 平成21年11月19日判決・自保ジ1816号

被害者(当時37歳専業主婦),併合6級(両下肢麻痺,排泄障害等),労働能力喪失期間27年間(67歳まで),素因減額8割
被害者は,助手席同乗中,玉突き追突によって,乗車していた自動車が4.8m押し出され,腰椎椎間板ヘルニア等で,2年7ヶ月に53日入院して,後遺障害12級を自賠責から認定されました。
裁判所は,被害者の後遺障害に対して併合6級後遺障害(両下肢麻痺,排泄障害等)を認め,その労働能力喪失率は67%と認め,労働能力喪失期間として40歳から67歳までの27年間としました。
しかし,被害者は事故前に腰部椎間板ヘルニアの診断を受けており,治療を要する腰痛はなかったものの,本件事故により,繊維輪に亀裂が生じ,この亀裂が日常生活を契機に椎間板ヘルニアになったと認定して,ヘルニアから膀胱直腸障害,両下肢麻痺が生じたとし,事故と因果関係の認められる損害は2割(素因減額は8割)としました。

(4) 京都地裁平成22年12月14日判決・自保ジ1845号

被害者症状固定時46歳男性,11級,素因減額2割
被害者は,乗用車を運転,信号待ち停車中,被告乗用車に追突され,頸椎前方固定術を受けて自賠責11級7号認定を受けました。

被害者は,本件事故当日,A大病院を受診した際,頸部周囲の疼痛,前屈での右上腕内側のしびれを訴え,同病院の医師は,同しびれを理由に頸椎ヘルニアの可能性はある旨回答したこと,被害者は,B医院での初診時に頸部痛,右腋窩部痛,左手の知覚鈍麻をそれぞれ訴え,さらに右上肢を握られている感じがあると訴えたこと,病院受診時には,後頸部痛,左第4,5しびれ感を,同月26日に左手でものを触れるとあみに触れているような感じである旨,右上腕が締め付けられている感じであり,左手がしびれている旨をそれぞれ訴えたこと,その後,左中・環・小指に明白な知覚障害が認められ,MRI画像所見はC5/6椎間板ヘルニア,C6/7椎間板ヘルニア,C3/4椎間板ヘルニア又は後縦靱帯骨化症等であったこと,被害者の訴えた上記の上肢の神経症状の部位の多くは,C5ないし7の神経根症状として説明が可能であること,本件手術の際,執刀医は,C7神経根右側にヘルニア塊を認めたことなどに照らすと,本件事故により,被害者のC6/7の椎間板ヘルニアが生じたものと認めるのが相当であると判断しました。

その一方で,本件事故後の被害者の症状は,主として同事故に起因するC6/7の椎間板ヘルニアによるものと考えられるが,同事故後の症状には,既往症であるC3/4,5/6の椎間板ヘルニア等により生じた平成17年当時の症状と共通又は類似するものがあること,同事故後の被害者の症状の中には,その部位,内容からしてC6/7の椎間板ヘルニア以外の頸椎の疾患に起因する疑いがあるものもあることに照らし,同事故後の原告の症状の発生にはC6/7の椎間板ヘルニア以外の疾患も寄与しているものと認めるのが相当であり,公平の観点から,原告の損害につき2割の素因減額をするとしました。


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