後遺症の逸失利益の考え方

後遺障害とは

自賠法上は,傷害がなおったとき身体に存する障害をいいます(自賠令2条1項2号ロ)。

なおったときとは

症状固定のことです。

症状固定とは,
傷病に対して行われる医学上一般に承認された治療方法をもってしても,その効果が期待しえない状態(療養の終了)で,かつ,残存する症状が,自然的経過によって到達すると認められる最終の状態(症状の固定)に達したときをいう。」とされています(財団法人労災サポートセンター「労災補償・障害認定必携」(第15版)67頁)。
症状固定については,リンク先「症状固定」を参照。

逸失利益の基本的な考え方

差額説労働能力喪失説の対立があります。

差額説とは,後遺症がなければえられたと考えられる収入から後遺症を残した状態で得られ,または得られると考えられる収入を控除した差額を損害と捉える考え方です。これによれば,論理的には,交通事故の前後を通じて収入に差異がなければ,後遺症による逸失利益は生じないことになります。

最高裁第二小法廷昭和42年11月10日判決・民集21巻9号2352頁は,「損害賠償制度は,被害者に生じた現実の損害を填補することを目的とするものであるから,労働能力の喪失・減退にもかかわらず損害が発生しなかった場合には,それを理由とする損害賠償ができないことはいうまでもない。」として,基本的に差額説に立っていると考えられています。

他方,労働能力喪失説とは,後遺症による労働能力ないし稼働能力の全部または一部喪失自体を損害と観念し,労働能力そのものを財産上の損害として評価するという考え方です。これによれば,論理的には,交通事故による現実の減収は問題とはならないことになります。
最高裁第三小法廷昭和56年12月22日判決・民集35巻9号1350頁は,「かりに交通事故の被害者が事故に起因する後遺症のために身体的機能の一部を喪失したこと自体を損害と観念することができるとしても,その後遺症の程度が比較的軽微であって,しかも被害者が従事する職業の性質からみて現在または将来における収入の減少も認められないと言う場合においては,特段の事情がない限り,労働能力の一部喪失を理由とする財産上の損害を認める余地はないというべきである。」として差額説の立場をとりつつも,「後遺症に起因する労働能力低下に基づく財産上の損害があるというためには,たとえば,事故の前後を通じて収入に変更がないことが本人において労働能力低下による収入の減少を回復すべく特別の努力をしているなど事故以外の要因に基づくものであって,かかる要因がなければ収入の減少を来しているものと認められる場合とか,労働能力喪失の程度が軽微であっても,本人が現に従事し又は将来従事すべき職業の性質に照らし,特に昇級,昇任,転職等に際して不利益な取扱を受けるおそれがあるものと認められる場合など,後遺症が被害者にもたらす経済的不利益を是認するに足りる特段の事情を必要とするというべきである。」と判示し,具体的事情を考慮して,現実の収入源がない場合にも逸失利益が肯定される場合があるとしています。

最高裁第一小法廷平成8年4月25日判決・民集50巻5号1221頁(いわゆる「貝採り事件」,交通事故によって重傷を負い,後遺症を残して症状固定した被害者が,事故後の一年半後に,自宅近くの海岸でリハビリを重ねて貝を採取していたところ,心臓麻痺を起こして死亡したという事案)は,「労働能力の一部喪失による・・・逸失利益の額は,交通事故当時における被害者の年齢,職業,健康状態などの個別要素と平均余命等に関する統計資料から導かれる就労可能期間に基づいて算定すべき」であると判示し,最高裁判例解説によれば,「最高裁がさらに労働能力喪失説の立場に更に一歩近づいたものと評価することも可能であろう。」としています(三村良一・最判解民平成8年度(上)349頁)
 
この最高裁判例解説によれば,前掲昭和42年判決は,「交通事故の傷害により労働能力が減少しても,そのことによって収入の現象が生じていないときは,被害者は労働能力の減少による損害賠償の請求をすることができない旨を判示しており,右判決を挙げて,最高裁が差額説の立場に立っていると説明されることが多い。しかし,損害についての一連の最高裁判例を見るならば,必ずしも最高裁が厳格な差額説の立場を採っているということはできないと思われる。すなわち,最三小判昭和39・6・24民集18巻5号874頁(幼児の死亡による逸失利益についても,統計資料等により算定すべき者であるとした。),最三小判昭和46・6・29民集25巻4号650頁(受傷のため付添看護を必要とした被害者は,その看護者が近親者であるため現実には看護料の支払いをしない場合でも付添看護料相当の損害を被ったものとして,加害者に対し,その賠償請求をすることができるとした。),最二小判昭和49・7・19民集28巻5号872頁(主婦の逸失利益を認めた。),最三小判昭和56・12・22民集35巻9号1350頁(結論としては逸失利益を認めていないが,判決文においては,「かりに交通事故の被害者が事故に起因する後遺症のために身体的機能の一部を喪失したこと自体を損害と観念することができるとしても,その後遺症の程度が比較的軽微であって,しかも被害者が従事する職業の性質からみて現在または将来における収入の減少も認められないと言う場合においては,特段の事情がない限り,労働能力の一部喪失を理由とする財産上の損害を認める余地はないというべきである。」と判示しており,労働能力喪失説を採る可能性を示唆した表現となっている。)等をみると,判例は,現実に生じた具体的な収入額の差異を離れて,ある程度抽象的な額として逸失利益の発生をとらえることを認めており,従来の最高裁の判例の立場については,厳格な意味での差額説を採っているというよりも,むしろ,被害者の身体傷害に基づく労働能力の喪失による損害を,被害者が現に従事している職種との関連という面で差額説的な考慮をしながら評価していると理解することが可能と思われる。」(前掲最判解民平成8年度(上)360頁,361頁参照)としている点が注目されます。

(全体について,池田耕一郎「被害者に現実の収入減少がない場合の逸失利益」公益財団法人交通事故紛争処理センター編集「交通事故紛争処理の法理」収用282頁以下,牧元大介「逸失利益(後遺症)」飯村敏明編集「現代裁判法大系6・交通事故」収用226頁以下,松谷佳樹「後遺障害と逸失利益」塩崎勤ほか編「新・裁判実務体系5・交通損害訴訟法」182頁以下,見米正「サラリーマンの逸失利益」塩崎勤ほか編「新・裁判実務体系5・交通損害訴訟法」230頁以下参照)



当事務所へのご相談はこちらから

ImgTop12.jpg

交通事故の無料相談 0957‐22‐8100
詳しくはこちら
相談票ダウンロード
推薦者の声
弁護士費用
事務所案内

contents menu

諫早事務所
アクセスはこちら
島原事務所
アクセスはこちら
長崎事務所
アクセスはこちら

ImgLS3_3.jpg