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家事従事者(主婦)の休業損害・逸失利益


 最高裁昭和49年7月19日判決・民集28巻5号872頁は,7歳女児の死亡事故に置いて,原判決が,高校卒業後平均初婚年齢の25歳までの逸失利益を認め,結婚後は離職するものとして,結婚後の逸失利益を認めなかったのに対し,「
結婚して家事に専念する妻は,その従事する家事労働によって現実に金銭収入を得ることはないが,家事労働に属する多くの労働は,労働社会において金銭的に評価されうるものであり,これを他人に依頼すれば当然相当の対価を支払わなければならないのであるから,妻は,自ら家事労働に従事することにより,財産上の利益を挙げているのである」とし,さらに,「具体的事案において金銭的に評価することが困難な場合が少なくないことは予想されうるところであるが,かかる場合には,現在の社会情勢等にかんがみ,家事労働に専念する妻は,平均的労働不能年齢に達するまで,女子雇用労働者の平均的賃金に相当する財産上の収益を挙げるものと推定するのが適当である」としました。

 
 家事従事者については,産業計,企業規模計,学歴計,女性労働者の全年齢平均の賃金額を基準に算定することが判例上認められています(最高裁昭和50年7月8日判決・交民8巻4号905頁)。
その額は,平成23年賃金センサスによれば,355万9000円です。
 
 なお,平成11年に発表された東京地裁,大阪地裁及び名古屋地裁の「交通事故による逸失利益の算定方式についての共同提言」(判タ1014号62頁)には,以下のように記載されています。
 

(1)専業主婦の場合

 原則として全年齢平均賃金によるが,年齢,家族構成,身体状況及び家事労働の内容等に照らし,生涯を通じて全年齢平均賃金に相当する労働を行いうる蓋然性が認められない特段の事情が存在する場合には,年齢別平均賃金を参照して適宜減額する。
 
 その減額の例として,次の例が挙げられています。
 夫と2人で年金生活をしている74歳の専業主婦
 74歳の女性の平成9年における平均余命は14.34年であるから,少なくとも7年間は家事労働を行うことができ,これを金銭評価するのが相当である。そして,年齢と生活状況を合わせて考えると,その間の家事労働を平均して金銭評価すれば,女子65歳以上の平均賃金の7割に相当する金額とするのが相当である。
 

(2) 有職の主婦の場合

実収入額が全年齢平均を上回っているときは実収入額によるが,下回っているときは,(1)に従って処理する。

 
 1人暮らしの女性の場合はどうでしょうか。
 家事労働が財産上の利益を挙げているとして評価されうるのは,それが他人のために行う労働である場合であり,自分自身の身の回りのことを行っても財産上の収益を上げる労働と評価し得ないと考えれば,休業損害も逸失利益も認められないことになります(東京地裁平成12年11月29日判決・交民33巻6号1950頁等,鈴木順子「家事労働の逸失利益性」東京三弁護士会交通事故処理委員会ほか編「民事交通事故訴訟損害賠償算定基準〔平成15年版〕299頁)。
 
 しかし,東京高裁平成15年10月30日判決・判時1846号20頁は,1人暮らしで無職の78歳女性について,「一審原告は,本件事故当時夫と死別して1人暮らしをしていたものであるが,自分の生活を維持するための家事労働に従事することができなくなった場合においても,それによる損害を休業損害と評価することが相当である」としました(この裁判例に対しては,1人で自炊生活をする女子大生,男子学生,1人暮らしの無職の男性等についても休業損害,逸失利益を認めざるを得なくなると批判されています)。
 
 なお,1人暮らしの女性の場合に,休業損害・逸失利益を否定する見解によっても,就労の蓋然性があれば,稼働収入の逸失利益は認められますし,家政婦を雇いその費用を支出したような場合には,その必要性と相当性が認められれば,交通事故と相当因果関係のある積極損害として認められます。

 保険会社の一般的な提示額は,休業損害については,
 1日当たり5700円×実際に通院ないし入院をした日
という自賠責の基準によって提案されることが多いようです。
 
 しかし,これが不当に低額であることは上記1,2の記述から明らかでしょう。

 適正な金額はどのように算定されるべきでしょうか。
 休業損害については,
 355万9000円(平成23年女子全年齢平均賃金)÷365×休業期間日数
 この計算式では,1日当たりの金額は,9750円となります。
 
 休業期間日数については,段階的,割合的に就労不能を評価する手法が一般的のようです。例えば,入院期間中は100パーセント就労不能,症状固定日までは70パーセント就労不能とした裁判例(名古屋地裁平成11年4月28日判決・交民32巻2号703頁)や,「被害者の稼働能力の喪失状況を,各病院のカルテに現れた被害者の主たる症状,日常生活の状況及び主治医の所見並びに被害者の供述などに照らし検討」した結果,全治療期間のうち第1段階は85パーセント,第2段階は75パーセント,第3段階は65パーセントというように,稼働能力喪失率も各期間ごとに段階的逓減的に低下するものとした裁判例(東京地裁平成15年1月28日判決・交民36巻1号152頁)などがあります。



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