間接損害について

企業の代表者や従業員が交通事故の被害に遭い,その結果,企業収益の減少が生じた場合にその損害賠償を相手に請求することができるでしょうか
 
被害者の死傷の結果,それによって損害を被った他人があった場合,この他人も損害を賠償請求することができるかという問題がいわゆる間接損害の問題として論じられています。このうち,法人である企業を構成する自然人の死傷事故によって会社に損害が発生した場合を特に企業損害と呼びます。

① 債権侵害としての企業損害

 企業と死傷者との間の委任契約や雇用契約に基づく労務供給債権に対する侵害行為と考えられ,これが侵害されたとすれば,直接不法行為請求をすることが可能です。ただし,一般に債権侵害が不法行為と評価されるのは,強度の違法行為を備えた場合,すなわち,故意ないしそれに準ずる場合に限られます。
 
 したがって,通常の交通事故では,この構成では不法行為が成立する余地はありません。

② 間接被害者の請求の可否

 間接被害者の請求の理論構成については,損害の範囲の問題とみる考え方と賠償権利者の主体の範囲の問題とみる考え方がありますが,前者が相当因果関係の問題として処理するのに対し,特定被害者の被った損害の範囲を確定するための理論に過ぎず,請求主体の確定にまで用いるのは制度目的を逸脱しているとして,賠償権利者の範囲の問題とする後者の考え方が通説です。
 
 そして,身体障害の場合における被害者すなわち侵害行為の対象となった保護法益の主体は,その身体に負傷した当人以外あり得ないことから,原則的に間接被害者の請求を否定するということになります。
 その理由としては,他人に対する就労請求権のこのような不安定性は予め企業計算の中に織り込んでおくべきであり,企業にとってかけがえのない人物の死傷による損害については,生命保険・傷害保険による損害填補等を配慮すべきことを根拠としています。

③ 最高裁第二小昭和43年11月15日判決・民集22巻12号2614頁

 薬局経営の有限会社Xの代表者Aが事故で受傷し,Xが売上減少の損害を請求。XはAの個人営業が法人成りしたもので,社員はA夫婦だけであり,Aは唯一の取締役で唯1人の薬剤師でもあった事案において,最高裁は,「X会社は法人とは名ばかりの,俗にいう個人会社であり,その実権は従前同様A個人に集中して,同人はX会社の機関としての代替性がなく,経済的に同人とX会社とは一体をなす関係にあるものと認められるのであって,かかる原審認定の事実関係のもとにおいては,原審が,Aに対する加害行為とAの受傷によるX会社の利益の損失との間に相当因果関係の存することを認め,形式上間接の被害者たるX会社の本訴請求を認容しうべきとした判断は正当である」と判断しています。
 
 このように被害者と「経済的同一体」ないし「財布共通の関係」にあるものについては,法人格否認の法理の裏返しないし家団類似の関係に基づき,例外として原告適格を認めるのが通説的な見解です。これは,法人成りしないままなら個人企業の経営者の損害として賠償できたものが,実態に変化がないのに,法人成りしたという理由だけで賠償を免れるのは不合理であるという均衡論がその正当性の根拠とされています。

④ 最高裁昭和54年12月13日判決・交通民集12巻6号1463頁

 戸別訪問による医薬品の配置販売業を個人経営するXの販売従業員Aが交通事故で受傷し,Xが売上減少の損害を請求した事案において,最高裁は,「(原審確定の)事実関係のもとにおいて,本訴請求を棄却した原審の判断は(正当であり,43年判決とは)事案を異にし,本件に適切ではない」と判断しました。原審(東京高裁昭和54年4月17日判決・交通民集12巻2号344頁)は,「AとXとは別個の自然人で形式上も実質上も別個の人格を有(し)・・・Aの休業補償とXの営業上の損害とはその性質,内容はもとより実質上の帰属主体をも異にするものであって,AとXとの間には経済的一体関係を是認することもできない。」としていました。
 
 このように直接被害者が従業員の場合には,会社との経済的一体関係はないので,会社からの賠償請求は認められないことになります。

⑤ 経済的一体関係のメルクマール

 経済的一体関係があるかないかのメルクマールとしては,資本金額・売上高・従業員数等の企業規模・直接被害者の地位・業務内容・権限・会社財産と個人財産との関係・株主総会・取締役会の開催状況等があげられます(平成16年損害賠償額算定基準316頁-松本利幸裁判官の講演参照)。

⑥ 反射損害について

 以上のような問題領域を固有損害の問題と称し,これとは別に,従業員が受傷のため就労できなかった期間においても会社が給料を支払った場合や,会社が受傷した従業員の治療費を支払った場合に,会社はこれらを加害者に対して請求できるかという問題を反射損害(肩代わり損害,転嫁損害等ともいいます)と称して,これらについては,これまで異論なく請求が認められるとされていました。
 
 例えば,従業員が休業中に会社が支払った賃金は,問題なく反射損害として請求できるとされています。従業員が休業すれば雇用契約上予定されている給付を受けることができないのに,賃金を支払えば,それは会社にとって直ちに損失になるからです。

⑦ 代替労働費・外注費について

 直接被害者が加害者から別途休業損害の支払を受け,あるいは会社が直接被害者に休業損害を肩代わりして支払い,それが会社の損害として認められるとすれば,その場合の代替労働費や外注費はその休業損害と実質的に重複するものと考えられ,仮に代替労働費や外注費が休業損害の額を超えるものであっても,結局は経費が増加したことによる収益減として固有損害と評価し,直接被害者と会社との経済的一体関係が認められるかどうかにより,その請求の是非を判断すべきことになります(前掲平成16年損害賠償額算定基準316頁参照)。


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