年金等の逸失利益について

1 恩給法に基づく普通恩給

(最一小昭和41年4月7日判決・民集20巻4号499頁)

 「普通恩給は、当該恩給者に対して損失補償ないし生活保護を与えることを目的とするものであるとともに、そのものの収入に生計を依存している家族に対する関係においても同一の機能を営む」ものであるとしてその逸失利益性を肯定。

2 各種の共済組合法に基づく退職年金

(地方公務員の退職年金給付につき、最大平成5年3月24日判決・民集47巻4号3039頁)
 地方公務員等共済組合法の規定する「退職金及び遺族年金は、本人及びその退職または死亡の当時そのものが直接扶養する者のその後における適当な生活の維持を図ることを目的とする」ものであるとして逸失利益性を肯定。

3 生活保護受給者の生活扶助相当額の喪失

 「生活扶助が健康で文化的な最低限度の生活の確保についての国の責任に基づいて(事前の拠出を要件とせず、公費負担で)、生活困窮者に対して行われるものであり、一身専属的な性質を持つこと、扶助がもっぱら当該費保護者(およびその家族)の生活費に充てられる(この場合は、最低生活基準に基づくものであるから、理論上その扶助費全額が生活費に充てられる)ことを理由とするものであるが、残された家族(遺族)について扶助(保護)の必要があれば、家族構成に応じた生活扶助が続けて行われ、それによって家族の生活のニーズが満たされることが、逸失利益を否定する根拠としては重要である。」(西村健一郎「公的年金の逸失利益性」同志社法学54巻3号407頁)

4 児童手当について

 「児童の養育にかかる費用負担の必要がなくなったということから、児童手当の受給権喪失自体を逸失利益として請求することはできないのであり、逸失利益は、当該児童が将来行うであろう稼得活動を前提にして算定されることになる。」(前掲西村407~408頁)

5 障害年金とその加給分

(最二小平成11年10月22日判決・民集53巻7号1211頁)

①障害年金については肯定

 「国民年金法に基づく障害基礎年金も厚生年金保険法も、原則として、保険料を納付している被保険者が所定の障害等級に該当する障害の状態になった時に支給されるものであって、程度の差はあるものの、いずれも保険料が拠出されたことに基づく給付としての性格を有している。

 したがって、障害年金を受給していた者が不法行為により死亡した場合には、その相続人は、加害者に対し、障害年金の受給者が生存していれば受給することができたと認められる障害年金の現在額を同人の損害額として、その賠償を求めることができるものと解するのが相当である。
 

②加給分については否定

 「国民年金法33条の1に基づく子の加給分及び厚生年金保険法50条の2に基づく配偶者の加給分は、いずれも受給権者によって生計を維持している者がある場合にその生活保障のために基本となる障害年金に加算されるものであって、受給権者と一定の関係がある者の存否により支給の有無が決まるという意味において、拠出された保険料とのけん連関係があるものとはいえず、社会保障的性格の強い給付である。

 加えて、右各給付については、・・・子の婚姻、養子縁組、配偶者の離婚等、本人の意思により決定することが予定されていて基本となる障害年金自体と同じ程度にその存続が確実なものということもできない。これらの点に鑑みると、右加給分については、年金としての逸失利益性を認めるのは相当ではないというべきである。

6 遺族年金の逸失利益は否定

(最三小平成12年11月14日判決・民集54巻9号2683頁)
 「遺族厚生年金は、厚生年金保険の被保険者又は被保険者であった者が死亡した場合に、その遺族のうち一定の者に支給される(厚生年金保険法58条以下)ものであるところ、その受給権者が被保険者又は被保険者であった者の死亡当時その者によって生計を維持した者に限られており、妻以外の受給権者については一定の年齢や障害の状態にあることなどが必要とされていること、受給権者の婚姻、養子縁組といった一般的に生活状況の変更を生ずることが予想される事由の発生により受給権が消滅するとされていることなどからすると、これは、専ら受給権者自身の生計の維持を目的とした給付という性格を有するものと解される。

 また、右年金は、受給権者自身が保険料を拠出しておらず、給付と保険料とのけん連性が間接的であるところからして、社会保障的性格の強い給付ということができる。加えて、右年金は、受給権者の婚姻、養子縁組など本人の意思により決定し得る事由により受給権が消滅するとされていて、その存続が必ずしも確実なものということもできない。

 これらの点にかんがみると、遺族厚生年金は、受給権者自身の生存中その生活を安定させる必要を考慮して支給するものであるから、他人の不法行為により死亡した者が生存していたならば将来受給し得たであろう右年金は、右不法行為による損害としての逸失利益には当たらないと解するのが相当である。

 また、市議会議員共済会の共済給付金としての遺族年金は、市議会議員又は市議会議員であった者が死亡した場合に、その遺族のうち一定の者に支給される(地方公務員等共済組合法163条以下、市議会議員共済会定款25条以下)ものであるが、受給権者の範囲、失権事由等の定めにおいて、遺族厚生年金と類似しており、受給権者自身は掛金及び特別掛金を拠出していないことからすると、遺族厚生年金とその目的、性格を同じくするものと解される。したがって、遺族厚生年金について述べた理は、共済給付金たる遺族年金においても異なるところはない。



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