6 物損に関する基礎知識

① 修理費

 修理が相当な場合,適性修理費相当額が認められる。
 自研センター(損害保険会社が出資をして設立された会社)方式という,実際に破損した自動車の修理作業について時間計測を行い,乗用車を中心とした部品の脱着作業,取替作業について標準時間を策定し,これを基にした指数に工賃を乗ずる方法による修理料金の算定が行われている。
 
 全国大型自動車整備工場経営協議会方式(自研センター方式と同様な方式)は,全国で広く用いられているとして,この標準作業時間に1時間7,000円のレバーレイトを乗じて修理額を算定した東京高判平成20年3月12日・自保ジャーナル1733号4頁がある。
 
 改造車の修理代につき,例えば,金メッキのバンパーをしている車につき,再度金メッキまでして賠償しなければならないのかについて,東京高判平成2年8月27日・判時1387号68頁は,バンパーというのは事故があった時に車体の損傷を防ぐためのものであるから,金メッキをさせて修理費を増額させるのは適当ではないとして,損害拡大防止義務の視点から,過失相殺の法理を理由に本来の修理費の50パーセント減額した賠償しか認めなかった。
 
 パネル等の外板部分については,板金塗装が原則であり,原則として交換は認められない(東京地判平成6年9月13日・交民27巻5号1220頁)。
 
 現在の塗装は,新車時になされる焼付塗装によるものと異ならないとされ,塗装の違いも専門家でなければ判別できない程度のものであり,全部を塗装しなければならない合理的理由がない限り部分塗装で足り,全部塗装は相当な修理方法とは認められない(東京地判平成7年2月14日・交民28巻1号188頁)。
 

② 経済的全損の判断

 修理が相当な場合,適正な修理相当額が認められるが,修理費が,車両時価額(消費税相当額を含む)に買替諸費用を加えた金額を上回る場合には,経済的全損となり買替差額が認められ,下回る場合には修理費が認められる(東京高判平成15年8月4日交民36巻4号1028頁も同旨)。つまり,買替差額(費用を含む)を上回る修理代は認められない。
 
 この点,最二小判昭和49年4月15日民集28巻3号385頁は,
「交通事故により自動車が損傷を被った場合において,被害車輛の所有者が,これを売却し,事故当時におけるその価格と売却代金との差額を事故と相当因果関係のある損害として加害者に対し請求しうるのは,被害車輛が事故によって,物理的又は経済的に修理不能と認められる状態になったときのほか,被害車輛の所有者においてその買替えをすることが社会通念上相当と認められるときをも含むものと解すべきである」としている。
 
 被害車両と同種,同等の自動車を中古車市場において取得することが至難であり,代物を取得する価格を超える高額の修理費を投じても被害車両を修理してこれを引き続き使用したいと希望することが社会通念上是認するに足りる相当な事由が存する場合には特段の事由がある(東京高判昭和57年6月17日交民15巻3号611頁)。
 

③ 買換差額

 最高裁は,
「いわゆる中古車が損傷を受けた場合,当該自動車の事故当時における取引価格は,原則として,これと同一の車種・年式・型,同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古車市場において取得しうるに要する価額によって定めるべきであ」るとしている(最二小判昭和49年4月15日・民集28巻3号385頁)。
 
 さらに,この価額につき,「課税又は企業会計上の減価償却の方法である定率法又は定額法によって定めることは,加害者及び被害者がこれによることに異議がない等の特段の事情のないかぎり,許されないものというべきである。」とも判示している。
 
 自動車の価格の証明方法としては,一般的には「オートガイド自動車価格月報(レッドブック)」によるが,財団法人日本自動車査定協会発行の「中古車価格ガイドブック」(「シルバーブック」あるいは「イエローブック」,日本自動車査定協会に連絡を取ってコピーサービスを利用することが可能),中古車の専門雑誌,インターネットなどの情報による算定もある。
 

④ 新車の買換合意

 事故相手に新車として自動車をどうしても買い換えたいということで,事故車の時価総額と新車の購入代金の差額を自己負担することを合意することは可能。このような場合法的に過度な要求になりやすく,合意の有無,合意の法的効力をめぐって裁判になることが多々ある。
 
 この点に関し,以下のような裁判例あり。
ア 東京地判平成3年8月22日・交民24巻4号928頁
日産インフィニティの新車779万8270円の買い替え合意を求めた事案。念書内容は損害賠償の原則に合致しないとして買い換えを否定。念書は事故当日の夜間に作成されたものであった。
 
イ 東京地判平成7年2月21日交民28巻1号223頁
1585万円のベンツの合意による新車買い替え費用を求めた事例。暴利行為として公序良俗に違反するとしている。これは,事故発生直後作成された念書であり,被告の主張によれば,原告の従業員らは,被告を取り囲み被告の畏怖困惑に乗じて書面に署名させたというものであった。
 
ウ 大阪地判平成5年6月3日交民26巻3号727頁
覚書作成が本件事故から5,6時間後のある程度動揺した心理状態が継続している時期に作成されたが,交渉時間は2時間程度でそれほど長時間ではないこと,交渉には父親も同席していること,大声を出して威圧した事実がないこと,自分なりに計算した上,覚書を被告自らが作成していることを理由に和解契約成立を認めた事例。
 
エ 大阪地判平成5年3月9日自保ジャーナル平成5年9月2日号
交渉過程の中で新車買い替えと下取り価額の差額70万円であるという合意をしたが,後日差額が137万5537円となったという事案において,70万円の範囲で合意成立を認めた事例。
 

任意保険の特約について

 対物補償が無制限という内容であっても,法律上の損害賠償責任の範囲内での補償しかなされない。この場合,相手の車両の修理代を全額填補しようとするときは,対物超過特約を結んでおく必要がある。これに対し自車の車両の新車買い換えを填補するためには,車両新価保険特約を付ける必要がある。この特約があっても,車の主要構造部分に損傷を受け,かつ損害額が契約金額の50%以上になることが必要なので,加入するにあたっては,保険の特約内容をよく検討した上で,加入すべき。
 

⑤ 買換諸費用

 買換のため必要になった登録,車庫証明,廃車の法定の手数料相当分及びディラー報酬部分(登録手数料,車庫証明手数料,納車手数料,廃車手数料)のうち相当額並びに自動車取得税については損害として認められる。
 
 事故車両の自賠責保険料,新しく取得した車両の自動車税,自動車重量税,自賠責保険料は損害とは認められないが,事故車両の自動車重量税の未経過分(「使用済自動車の再資源化等に関する法律」により適正に解体され,永久抹消登録されて還付された分を除く)は,損害として認められる。
(赤い本平成26年版200頁)
 

⑥ 評価損

 評価損とは,事故前の車両価格と修理後の車両価格の差額をいい,概念的には技術上の評価損と取引上の評価損という2種類があるとされている。
 
 技術上の評価損とは,技術上の限界から修理によっても回復できない欠陥が残存する場合である。
 取引上の評価損とは,事故歴があるという理由で交換価値の低下する場合である。
 両者を含めて広義の評価損といい,後者の場合を狭義の評価損といっている。
 
 事故歴があるだけで下取価格が低下するという損害が発生することは避けられないから,機能上外観上の損傷の可能性を評価損発生の絶対要件とすべきではなく,また,中古車業者の修理歴表示義務がない場合にも下取価格が低下するのは避けられないことから,初年度登録からの期間,走行距離,損傷の部位,車種を念頭に評価損の発生を検討すべきである(景浦直人・赤い本平成14年版295頁)。
 
 具体的には,外国車・国産の人気車種では5年(走行距離6万㎞),国産車では3年(走行距離4万㎞)以上超過すると評価損が認められにくくなる。
 
 「車種,それに乗っている期間,走行距離,修理の程度等を考慮し,修理費を基準にその30%を上限に評価損を認めている」が,「購入後間もない車両については50%の評価損を認めることもある(河邉義典「新しい交通賠償論の胎動」13頁)。
 

⑦ 代車使用料

 代車料は,事故により修理や買換が必要になり,その使用不能な期間について現に代車が必要であり,且つ代車を使用した時は相当な範囲に限り代車使用料が損害賠償として認められる(小林邦夫・赤い本平成18年版・下77頁)。
 

⑧ 休車損害

 営業用車両については,営業許可及び事業形態の関係から事故の修理期間,買替期間について代わりの車を使用することができず,稼働していれば可能であった営業利益の補償を休車損害として認める。
 
 算定方法は,被害車両の1日当たりの売上げから運行しないことによって免れた経費を控除して1日当たりの利益を計算し,これに相当な休業日数を乗じて算出する。有休車があり代替可能であった場合は,損害がなかったことになる。有休車が存在しなかったことの立証責任は被害者が負担するという運用が実務上なされている(民事交通事故訴訟の実務-保険実務と損害額の算定-193頁以下)。
 

⑨ 営業損害

 店舗などに車両が飛び込んで営業ができなかった場合に営業損害が認められる(赤い本平成26年版211頁)。
 

⑩ 物損の慰謝料

 物損に関しては,物の価格の賠償がなされればそれをもって原状回復がなされたものというべきで,物損の慰謝料は認められないのが原則である。認められる例外的場合は,①社会通念上認められる特別な主観的・精神的価値を有し,財産的価値を認めただけでは足りない場合,②加害行為が著しく反社会的で財産に対する金銭賠償だけでは償えないほどの精神的苦痛を受けた場合である(浅岡千香子・赤い本平成20年版・下41頁)。

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