無償同乗(行為同乗)

1 無償同乗(好意同乗)とは

無償同乗(好意同乗)とは、一般に好意または無償で他人を自動車に同乗させることをいいます。その際に事故が発生した場合、被害者(同乗者)の賠償額が減額されるかどうかという問題があります。  


2 無償同乗(好意同乗)による減額の取扱い 

無償同乗(好意同乗)それ自体を理由として減額されることはありません。同乗者に帰責事由がある場合(好意同乗者が運行をある程度支配したり、危険な運転状態を容認又は危険な運転を助長、誘発した等の場合)にはじめて減額の適用が問題となると考えられます。 

 

「好意同乗に関する判例の研究」(六甲総合法律事務所・交通春秋社)によると,「昭和51年から平成7年までの20年間において、好意同乗要素だけで減額を認めるか否か判示した判例は54件である。その内、好意同乗で減額を認めた判例は20件(37%)、減額を認めなかった判例は34件(63%)である。昭和51年から同55年の5年間をみると、好意同乗で減額した判例は9件(60%)、減額しなかった判例は6件(40%)である。平成元年から平成7年までの最近判例をみると、減額を認めた判例は3件(18%)、減額を認めなかった判例が14件(82%)と、断然、好意同乗による減額を否定した事例が多くなっている。」(同書8頁)

 

すなわち、昭和50年代の前半では、好意同乗による減額を認める立場の判例とこれを認めない立場の判例が拮抗していましたが、近年はこれを認めない立場に立つ判例が著しく増加しており、判例の流れを見ると、この傾向は将来に向かってさらに進展するものと考えられているのです。

 

しかしながら、「示談の実務では、古い判例を参考にして、無償同乗を大幅な減額事由として取り扱う傾向があり、最近の判例の傾向と示談の実務との間には大きな格差がみられる。このように、現在でも、好意同乗の問題については、被害者の公平な救済が得られない状況にある。」(同書1頁)と憂うべき状況にあるのです。

 

最近の赤い本でも、「無償同乗自体を理由としては減額しない。」と明記しています(「平成25年版民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準上巻(基準編)」財産法人日弁連交通事故相談センター東京支部編217頁)。

 

示談の実務では、損保側は古い判例を持ち出し、大幅な減額事由として取り扱っていることが多く、損保側の詐欺的交渉が行われる示談にはくれぐれも注意をしましょう。


3 無償同乗による減額を否定した判決理由

前掲書・好意同乗に関する判例の研究10頁にも掲載されている岡山地裁平成6年4月28日判決・交通民集27巻2号545頁は、この点に関する考え方を次のように述べています。

 

「一般に、好意で同乗者に利便を提供したとしても、自動車運転者は、一歩間違えば人命を奪う危険も内在する高速度交通機関を操縦するのであるから、他人の命をも預かるものとして、同乗者の安全確保に配慮し、慎重に運転すべき注意義務を負っていることは明らかであって、このような配慮を欠いたために生じた損害は、原則として運転者が負担すべきであり、単に好意同乗であることの故をもって、同乗者に右損害を転嫁することは相当でないというべきである。」


4 同乗者の帰責事由による減額

他方、どんな場合でも同乗者が責任を負わないわけではありません。運転に影響を及ばせば当然責任を負います。同乗で減額されないとしても同乗者が減額される場合が例外的にあります。同乗者に帰責事由(危険承知、危険関与・増幅等)がある場合です。

 

この点についても、前掲岡山地裁判決が述べているところを引用します。

「しかしながら、他方、現代は車社会であって、その常識からすると、自動車の運行に伴う危険を管理し、搭乗者の安全を確保する責任は、1人運転者や自動車の保有者にのみあるのではなく、当該自動車の運行に関与する各人が、それぞれの立場に応じて分担しているとみるのが合理的である。従って、同乗者が、その時、その場合に応じて、右のような危険管理の責任を分担している立場にありながら、その配慮が不足していたような場合には、信義則ないし損害の公平な分担の見地からみて、運転者に全額を負担させるのではなく、賠償額を相応に減額するのが相当であると解すべきである。」

以下、裁判例で、問題となったケースをいくつかご紹介しておきます。


飲酒運転

終業後の私的な会合で共に飲酒した会社の同僚同士の1人が運転し,他の2人が同乗していた車両が単独事故を起こし、同乗者2人が死亡した事案。死亡した被害者らも運転者の飲酒を知っていた点で本件事故の損害の発生に帰責事由があり、また,当該自動車の運行により利益を受けるものであったとして1割を減額した事例(名古屋地裁平成13年9月7日判決・交通民集34巻5号1244頁)

 

居酒屋で共に飲酒した被害者が、誘われるままに自宅で送ってもらうため自動二輪車に同乗中、自動車と衝突し受傷した事案。アルコールの影響を受けている状態にあることを認識しながら同乗したこと等を考慮して1割を減額した事例(東京地裁平成18年7月26日判決・自保ジャーナル1661号7頁)

 

加害者が激しい雨の中時速約80キロの高速度で無謀運転をし同乗中の被害者を死亡させた単独時の事案。被害者が共に飲酒して加害者の飲酒・疲労を認識しながら同乗したのは飲酒運転を助長した側面があるし、無謀運転を注意しなかった落ち度は否定できないとしつつ、被害者が事故の直接の原因である加害者の過失に関与したとは認められないし加害者の飲酒を積極的に教唆・幇助したとも認められず、むしろ加害者の依頼等を認めにくい関係であったことからすると被害者の責任は大きいとはいえないとして1割を減額した事例(金沢地裁平成22年6月9日判決・自保ジャーナル1847号108頁)


② 無免許運転

加害者は単車を購入したが、無免許で、2人乗りをして走行中、ヘルメットを着用していなかった同乗者を死亡させた事案。脳挫傷が死因として大きいのでヘルメット不着用が死亡の結果を招いたとして1割の減額、さらに運転者の無免許を知っていたことを理由に1割の減額、合計2割の減額を認めた事例(千葉地裁平成7年5月11日判決・交通民集28巻3号755頁)


③ 暴走運転・箱乗り運転

加害者が時速40キロに加速して交差点を左折しようとしたため車両が転倒し箱乗り同乗中の15歳の被害者を死亡させた事案。自ら言い出して箱乗りしていた被害者に過失相殺すべきであるが、箱乗りを容認した年上の加害者にも責任があるとして被害者の過失割合を2割とした事例(横浜地裁平成22年10月29日判決・自保ジャーナル1847号140頁)


④ 疲労運転

前夜友人らを迎え、当日も往復運転し、スキー後の帰路も運転していた加害者の運転中の事故について、同乗者も居眠り、運転者も居眠りをして事故を起こしたという事案で2割の減額を認めた事例(前掲岡山地裁平成6年4月28日判決・交通民集27巻2号545頁)

 

なお、少々長い時間の運転であったとか、深夜早朝の運転であったというだけの理由で疲労運転を推定するのは長距離長時間の好意同乗要素で減額を認めるのと等しい結果になり妥当ではないと思います。疲労運転というためには、長距離長時間の運転に特別の事情が加わることが必要で、例えば、長距離を夜通し走行したり、スキー等スポーツの帰りに長時間運転するなど特別な事情があって、通常疲労していると認めても不自然でない場合等です(前掲書・好意同乗に関する判例の研究15頁参照)。


⑤ スピード違反

加害者が時速115キロで運転し、カーブを曲がりきれず歩道縁石に衝突して同乗中の被害者を死亡させた事案。被害者は加害者と共に飲酒して少なくとも黙示的に飲酒運転を容認し、運転中も原則を求めるなどしていないから本件事故の発生につき帰責性あるいは寄与した面があるが、それは消極的な黙認であり積極的に本件事故を誘発ないし助長したとは評価されるほどのものではないとして1割の減額を認めた事例(仙台地裁平成22年3月19日判決・自保ジャーナル1836号41頁)

 

なお、運転者がたまたまスピードを出しすぎたからといって、直ちに同乗者がこれを制止すべきであったとはいえません。この事案は、飲酒運転の事案でもあることに注意が必要です。共にスリルを楽しむとか、共に帰宅を急ぐなど、同乗者も積極的にスピード違反に関与していた事情がある場合に限って、減額事由になるものとすべきです(前掲書・好意同乗に関する判例の研究17頁参照)。



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